アエラな生活

郷 明博(ごう・あきひろ)
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私がテープ版アエラを聴くようになって10年あまりになります。
毎週木曜日か金曜日には、その週発売分のテープ版アエラが私の手元に届きます。
そして、まず愛用のソニーのウォークマンの携帯用電池を充電する事から、私の「アエラな生活」はスタートします。

以前私は、片道約2時間という長距離通勤者でした。 朝のラッシュ時は座る事はおろか、立っていられる場所を確保するのがやっとの状態でした。
しかし、肉体的には苦痛だけの、この過酷な通勤時間を、精神的な豊かさを感じられるひとときに変えてくれたのが、テープ版アエラです。
一日の往復通勤時間でちょうど90分テープ1巻が聴けました。
当時(というか、ついこの間まで)テープ版アエラはテープ全4巻でしたので、一週間の通勤時間だけで聴き終えるのに充分でした。

当初は、単なる時間つぶしのつもりで始めた通勤電車内の「アエラな生活」は、はからずも、非常に貴重で有意義な時間を私に与えてくれることになりました。
ウォークマンの操作もままならないほど超満員の電車の中では、あまり興味の無い記事でもスキップ操作が煩わしく、そのまま聴く事になります。
聴くつもりのない広告文も耳に入ってきます。
この、言わば「アエラ聞き流し」が私の雑学知識の元となり、また意外な側面から時代の流れを捉えるアンテナの役割を果たしたりしました。

もし私がアエラを活字で読む事ができたなら決して読まないだろうと思える記事の中に、私の知らなかった新しい発見があるのです。

満員電車の中では多くの人が、片手で吊革につかまりながら、苦しい姿勢で新聞や本や雑誌を読んでいます。 その点、アエラを聞いている私は、吊革にはつかまっているものの、もう一方の手は自由です。
また、電車の揺れで大きく姿勢が崩れそうになった時、姿勢を崩さないように必死でふんばりつつも、アエラの「現代の肖像」を聴いてその人の生き様に感動し、「なるほど」と呟きながら肯き、幸せを感じていたりします。

周りの人には不気味に映ったかもしれません。
でも、あの満員電車の中で幸せを感じている人などあまり居ないでしょうから、なんだかちょっと得したような、ささやかな優越感を味わいます。
また、帰りの電車で座れた場合など、アエラを聴きながら眠ってしまう事もあります。
でもこれは、言わば睡眠学習となる訳ですから時間の有効活用であり、なんだかちょっと得したような、ささやかな優越感を味わう…、わけありませんね(笑)。

転勤に伴う引越しにより、会社への通勤時間は現在は片道約30分です。
電車以外でテープ版アエラを聴く時間を捻出しなければなりません。
今は一週90分テープ全2巻となったので、聴く時間を作るのは容易ですが、やはり物足りなさは否めません。
フルコースで味わってこそ「アエラな生活」の真骨頂なのです。

ところで、このテープ版アエラの優れた点は、音訳サービスJの音訳技術の高さにあると思います。
アエラは、政治・経済・世界情勢等、ニュース性の高い記事を扱う事が多い週刊誌ですので、小説等の音訳とは異なり、アナウンサーのように淡々と、そして比較的速く読む必要があると私は感じています。
音訳者の方は、それを充分心得ておられるようで、時に軽快なリズム感を伴って素早く記事を読み、時折含まれる会話文ではそれなりの感情移入を行い、90分テープ両面にそつなく音訳記事が収まっています。
勿論、音訳者によって声質、イントネーションやスピード感など、音訳スタイルは異なりますが、全体的にハイレベルな音訳技術が保たれていると思います。
そして、それぞれの音訳内容に音訳者の個性とも言える「スパイス」がふりかけられていて、さまざまな味わいを楽しませてくれます。

テープ版アエラの重要な特徴の一つに、音訳というサービスに対して利用者である視覚障害者が利用料金を支払う、という事が挙げられると思います。
視覚障害者の中には、有料ということに抵抗を感じられる方もおられるでしょう。
でも、有料だからこそ、高い技術を持った音訳者を一定時間拘束し、高い品質内容を保ちつつ、墨字版発行から1週間以内という迅速さで、毎週欠かさず、制作することができるのでしょう。
12年にも及ぶ制作経験とノウハウにより、テープ版アエラは非常に完成度の高いテープ雑誌になっていると思います。 善意のボランティア活動では、こういった継続的、高品質なサービス提供を期待するのは少々難しいのではないでしょうか。

テープ版アエラは、プロによって作られているからこそ高品質で付加価値の高いものなのです。 私たち利用者がその価値に対し対価を支払うのは当然だと思いますし、反面、対価を支払うからこそ、私たちはその品質を厳しくチェックしていきます。
もしも、品質が落ちるようなことがあれば、私たちは「消費者」として対等な立場で、遠慮なく指摘することができます。

「障害者のQOL(Quality Of Life)を支える高品質な有料障害者サービス」。

音訳サービスJは、10年以上も前から先駆けて、この意義あるサービス提供を実践してきている会社なのだと、今更のように感心させられます。

今年6月、テープ版アエラは休刊の危機に見舞われました。しかし、音訳サービスJのスタッフのこだわりや多くの利用者の熱意により、記事抜粋、価格値上げとはなりましたが、制作が続行される事になりました。
この一件から、利用者自らがテープ版アエラについて一緒に考え、語り、支えて行く為に、「アエラのテープ版を支える会」を発足しました。
「支える会」の目的は、テープ版アエラを全文音訳、原本と同価格、という従来の形に戻すことです。この目的にご賛同いただける方がありましたら、視覚障害者、晴眼者にかかわらず、支える会にご参加いただければ幸いです。

月曜日の朝、電車に乗り込み、この10年で6台目となるウォークマンの再生ボタンを押すと、ヘッドホンから聴き慣れた音訳者の声が聞こえてきます。
この音訳者のスパイスは、全体的にはまろやかなのだけど、時折ピリリと辛い。
結構私の好きな味です。

「うまいんだよなぁ、Jのアエラ!」。

いつまでも、このごちそうが味わえるよう、
利用者としても支えていきたいと思っています。

 

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