日本点字図書館
田中徹二(たなか・てつじ)館長に聞く

“これからの録音図書”


(聞き手・高山久美子)
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取材中の館長と高山 −田中さんは視覚障害者個人として、日点館長として、どれくらいの録音図書をお聞きになるんですか?

それはもう相当な量になります。日点で制作した図書はもちろんですが、「アエラ」や「文芸春秋」などの雑誌もありますから、聞ききれない時もしばしばですね。

−たくさん聞かれますと、聞きやすいテープ、そうでないテープ、いろいろあるでしょうね。

作り方やスタイルは製作基準に従って作っている人がほとんどで、そう差がないんですが、聞きやすさの鍵は、やはり「読み方」ですね。

私はいつも時間がなくて、倍速で聞くんですが、倍速で聞きやすいものと、聞きにくいものがあるんですよ。
イントネーションとか、発音がしっかりしていると、倍速でも聞けます。
ところが言葉が聞き取れない場合など、テープを止めて巻き戻し、速度も落とさなければならない。
こうなると聞くのが面倒臭くなってしまってね。

音訳サービス・Jのテープは、デモテープやアエラなど聞いていますが、いいですね。
聞きやすいです。
たまにはそうじゃない人もいますけれど(笑)全体的な水準からいえばいいですよ。
「アエラ」は、割と早口ですが、倍速で充分聞けます。

だけどね、僕は倍速で聞くのが必ずしもいいと思っているわけではないんですよ。

−と言いますと・・・

時間がないから仕方がなく倍速で聞いているけれど、小説など、感情移入の上手な読み手の場合などは、少し速度を落として、ゆっくり聞いたほうが味わいがあります。
雑誌でも、記事の中に会話体などがでてきますね。
それを全くの一本調子で読まれると、不自然に感じます。
とは言っても、思い入れが過ぎたり、間違った解釈をされて読まれると、非常に違和感がありますから、平均的なものを作るためには、あまり感情移入しないのがいいのでしょうね。
けれど、優れた読み手の人には、ぜひ思いをいれて読んでほしいと思います。

僕は「音訳」という言葉は好きではないんです。
「点訳」に対して「音訳」が使われるようになったのでしょうが、音声と点字では基本的に違うんですよね。
点訳には点訳者の人間がでませんが、読む場合には、声にその人の人格が明らかに出ますからね。
その意味で「音訳」というのは違うかな、と。
「朗読」とも違うから、強いていえば、「音声訳」ぐらいかな。
読んでいる人の声そのものから気に入らないこともあってね、この人の声ヤダなぁと思うと、途中でやめちゃったりします。
点訳ではこんなことありえません。
声は、その人の生活を想像したりもしますね。
こういう声の人はどういう人かな、いくつぐらいなのかな、なんて(笑)。

−そうすると、人選びが重要ですね。Jでは、作品の雰囲気にあう読み手を、会社が選んでいます。

それは大切なことですね。
視覚障害者向け情報提供施設の中には、選書した図書の中から朗読者が好きな図書を選ぶところもあるようですが、日点では、職員が人選して頼んでいます。

−ところで、日点の録音図書については、ボランティアで製作されていて、今まで購入されることはなかったようですが、最近はその方針が変わったそうですね。
これはどういう経緯なんでしょう。

利用者の希望です。
選書の際、一番参考にするのが利用者の希望ですから。

例えばJなら、Jの図書がいい、という声が寄せられていれば、予算内であれば、購入して提供することを考えようと。

点字本は点字出版所が昔からあって購入していましたが、録音図書は今までそういう習慣がなかったんですね。
でも、読者から希望が強いものは買おうということになりました。
今度入れたのはウィンドウズの操作マニュアルだったんですが、すごい反響がありましたね。
テープ製作会社には、特別なノウハウがないと作れないものやデイジーを作ることなどを今後期待したいです。

−日点といえば、初代館長の本間一夫(ほんま・かずお)さんの頃からボランティアを養成してきて、いわば、ボランティア養成の草分け的存在であると思うんですが、その日点が、テープを購入されたということを聞いたとき、私は、ボランティア一辺倒の時代が変わってきているのかなと思ったのですが。

それは変わってきていると思います。
だいたい、視覚障害者側のニーズが多様化していますから、うちで作ったものしか提供しないと言うことではいずれ行き詰まってしまうと思います。
社会の変化によって、様々な要望がくるわけですが、それを無視していては、情報提供施設として発展していけません。
そんなことから、対面朗読も初めたんです。
読者のニーズに対応するというところに主眼をおくと、日点も、自然と変化してくるでしょう。

−ある意味で、視覚障害者が希望を言いやすい、声を上げやすい状況になってきているのでしょうか 。

そうですねぇ。
例えば、外を一人で歩いている視覚障害者って、特に東京ではすごく増えてきました。
昔はこういうことが全くなかった。
自分たち視覚障害者の生活態度が変わってきていますから、それに伴って、様々な要求が出てきて、それが図書の分野にも反映してきているのではないでしょうか。

−ここ数年、視覚障害者の読書環境は急激に変化しています。
これからをどうごらんになりますか?

今一番恐いのは、録音図書のメディアがどうなるかということです。
日点ではデイジーのCD製作をしていますが、先日ソニーが来て、MDで5時間、6時間も録音できるシステムが始まったと言うんですね。
ウォークマンタイプのMDプレーヤーで長時間の録音再生ができるようになると、 「CDよりMDのほうが小さくていいではないか」
という声が利用者からあがるかもしれません。
これからのデジタル時代、カセット時代よりも早く、メディアが変化すると思うんです。
CDの製作を始めるのに、コンピューターをはじめ、すごいお金がかかっている。
それを、なんとかかんとかお金を集めてCDを作ってきたのに、例えば、5年ぐらい先にCDが生産中止になって他のメディアになったりしたらどうしようか、と、正直、恐いですね。

その他に注目するのは、音声への自動変換です。
図書のデータが自動変換で合成音声になれば、録音は不要で、活字の本がいきなり盲人用の本になる。
そんな時代がいずれはくると思います。
日本語は漢字の読み方が難しいけど、英語圏の国は早いんじゃないかな。
日本語がいつそうなるかですね。
また、光ファイバーが普及すれば、録音してある大量のデータでも数秒で送れるようになりますから、そういう時代もくるでしょう。

−ありがとうございました。お話を参考にしつつ、これからも録音図書作りに頑張りたいと思います。

 

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