松井進さんと盲導犬アンドリューの写真。イスに腰かけたスーツ姿の松井さんのひざもとに、アンドリューが顔をすりよせています。 究極のバリアフリー出版をめざして!!   
 「盲導犬アンドリューの一日」の取り組みを例に


松井 進    
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 はじめに
 出版のバリアフリー化とは何か!!出版の世界におけるユニバーサルデザイン化はどのようにしたら実現できるのか!!これが著者として、また視覚障害を持つ一読者として私が何時も考えているテーマです。そして2002年11月上旬、究極のバリアフリー出版をめざして私はこのたび「日本初の6媒体同時出版」を関係各社の皆さんのご協力を得て実践いたしましたのでこの紙面をお借りして少しご紹介させていただきたいと思います。
 すでにバリアフリー出版については、本誌2001年10月上旬号の「誰でもが読みやすい本の出版をめざして」にて、また出版のユニバーサルデザイン化については、本誌2002年8月上旬号の「出版のユニバーサルデザイン化をめざして 〜「盲導犬ハンドブック」での取り組みを例に〜」にて詳しくご紹介させていただいておりますのでそちらの方も併せてご参照いただければ幸いです。
 このたびの「盲導犬アンドリューの一日」では、今までバリアフリー出版の最大の課題とされてきた価格の問題や、販売ルート、発売時期についても完全ではないにせよ一応の解決を見ることができました。そして今後もバリアフリー出版を実践していくための課題についてもある程度明確になってきたかと思いますので少しご紹介させていただきたいと思います。

    「盲導犬アンドリューの一日」の概要
 盲導犬アンドリューの一日は、盲導犬の仕事を現役の盲導犬の目を通して描いたバリアフリーな絵本です。また私自身現在五歳と二歳の子どもの父親であり、本書を通じて子ども達に盲導犬の真の姿を知って貰えればと願って執筆しました。
 本文から概要をご紹介すると、「ぼくのしごとは、ご主人をあんぜんにあんないすること。でかけるときはいつもいっしょ。ぼくがうまくしごとをすると、ご主人は「グッド」とほめてくれる。そんなとき、うれしくて、しっぽをぶんぶんふってしまうんだ・・・。
 ドア、階段、交差点、駅などで、盲導犬がどんな働きをし、ご主人をいかに安全に導くかを、盲導犬アンドリューの目を通して、わかりやすく、時にユーモラスに描いた絵本です。
 また読者も幼児から大人まで幅広い年齢層の方にお読みいただけるように分かり易い文章と柔らかい絵に仕上げました。そして「盲導犬ってなんで「アイメイト」ってよばれるの?」、「盲導犬はどんな働きをするの?」といった素朴な疑問に答えてくれるしたしみやすい一冊になればと願って制作しています。

    バリアフリー出版とは
 以前の記事でもご紹介いたしましたが、一般的に出版というと通常の活字による四六判やA5判等の紙媒体による本を思い浮かべる方が多いと思いますが、私たち視覚障害者にとっては残念ながらそのままの状態では読むことができません。そのため点字や録音テープによる出版が必要となります。また最近では高齢者や弱視者向けの大活字出版や、パソコンを使用した読書に対応したマルチメディア出版等、出版形態も多様化しつつあります。そこで「視覚障害者を含む通常の方法による読書の困難な方」の多様なニーズに対応できる出版形態が「バリアフリ ー出版」なのではないかと考えました。
 そこでこのたびの「盲導犬アンドリューの一日」では、一般文字版の絵本の出版にあわせ、点訳版・音訳版(朗読テープ)・大活字版・FDブック版(フロッピーディスク)・マルチメディアDAISY版(CD−ROM)の6媒体を用意しました。そしてこの6媒体による絵本のバリアフリー同時出版は、本書が日本初の試みだと思います。またこのたびのバリアフリー出版でもう一つ実現することができたのが、価格のバリアフリーです。詳しくは後述しますが、今まで行ってきたバリアフリー出版ではどうしても価格のバリアフリーが実現できませんでしたが、このたびは点字版・音訳版(朗読テープ)・大活字版・マルチメディアDAISY版(CD−ROM)については原本と同じ1,400円、FDブック版については、絵の部分はなく文章のみのため原本より安い500円という価格で販売できることになりました。

    バリアフリー出版と通常の出版形態の違い
 通常の出版の場合、原本が出版された後、読者からのリクエストや、芥川賞や直木賞等の入選作品、ベストセラー等で社会的に話題になった本、図書館のサービスであれば利用者のリクエストにより点訳や音訳の作業をおこないますが、バリアフリー出版の場合には、制作時間を短縮するため著者や出版社の協力が得られれば出版準備の段階から各媒体の作製に入ります。また想定している利用者も視覚障害者等に限定することなく、身体障害者や学習障害者、知的障害者、高齢者等利用者を通常の活字による読書の困難な人すべてに拡げていることも特徴です。

    出版のユニバーサルデザイン化とは
 現在1年間に出版される本の総タイトル数は約7万冊に上るため、残念ながらすべての出版物をバリアフリー出版することは物理的に見てもとうてい不可能です。そこで出版社と著者との間で交わされる契約書に視覚障害者等通常の方法による読書の困難な方に対応するため、点訳や音訳、大活字、FDブック、マルチメディアDAISY版の制作の希望があった場合には、商業出版や図書館の障害者サービスの別なく、速やかに著者及び出版社協議の上許諾する旨の文言を入れていただくことが「出版のユニバーサルデザイン」への対応だと思います。
 このように著者が事前に出版社からの許諾をとっておくことにより、制作の希望があった出版物について、速やかに他の媒体の制作ができるようになります。また最初からいろいろな読者の方を想定し、あらかじめ対処できるようにしておくことが、「出版のユニバーサルデザイン化」に繋がり、結果として著者や出版社・読者のそれぞれの利益にもつながるかと思います。

    マルチメディアDAISY版の発行
 私がこのたびの出版で特にこだわったのが、マルチメディアDAISY版の発行でし た。
 蛇足ながらマルチメディアDAISY版の特徴について少し解説しておくと、DAISY(Digital Accessible Information System「デジタルアクセシブル情報システム」)とは、従来のカセットテープに変わりCDに録音することからスタートしたシステムで、音質の劣化がなく、1枚のCDに約50時間と長時間の録音が可能であり、章や節、ページ単位での移動や目次からのジャンプ、本文中の文字列からの検索が容易にできるのが特徴です。また今回発行したマルチメディアDAISY版は、音声だけでなく、パソコンの画面上に本文や表紙、文中に使用した絵や写真等も 同時に表示できるのが特徴で、使用できるOSもWINDOWSだけでなく、UNIX等いろいろなOSで扱えるインターネットの標準的な技術で作られたデータがCD−ROMに書かれています。
 利用者も視覚障害者はもちろん、いままで通常の方法による読書が困難とされてきた学習障害者や、本をめくることのできない重度の身体障害者の方でも、特殊なキーボードやマウス、ジョイスティックやアイコンタクト(瞬きでパソコンを操作する方法)等で読書を楽しんでいただくことができる他、最近の研究では、その方専用に開発された使い慣れたジョイスティックやフットスイッチ、果てはボイスコマンドでパソコンをプレーヤーの如く動かせる研究も進んでいます。そして利用者も読み書き、計算など発達性障害をもつ多くの子どもたちにも活用できる点についても実証実験がすすめられています。
 流通についても、DAISY版の本は今までは特定の出版社による直売のみでしたが、今回はISBNを付け、一般の書店で購入できるようにしました。そしてデータもDAISY形式だけでなく、通常の音楽フォーマットも収録したため、パソコンや専用のプレイヤーだけでなく普通のCDプレイヤーでも人のナレーションが聞けるようになりました。

    FDブック版の発行について
 今回バリアフリー出版としては新たな試みとしてパソコンや専用の読書機器等で利用することができる「FDブック版」も発行しました。
 具体的には、視覚障害者用OCR(光学式文字読み取りソフト)の「ヨメール」や「よみとも」、視覚障害者対応ワープロソフトの「マイワード」等で使用できる他、「FDブックス音声ビューア」(http://www.vector.co.jp/soft/dl/win95/art/se177483.htmlでも聞くことができます。
 また今回はFDブックファイル形式の他、ワープロソフト等で利用することができるテキストファイル形式でも提供しています。
 FDブックはフロッピーディスクによる提供が基本ですが、希望があればメール添付も可能です。FDブックの場合、出版社から原本のテキストファイルさえ提供を受けることができれば、他の媒体に比べ制作業が容易であり、今回の絵本の場合絵の部分はなく、本文の文書のみのため、価格的にも原本より安価な500円となりました。

    価格のバリアフリーについて
 今までバリアフリー出版を実践してきた5タイトルについて、やはり一番の問題になっていたのが価格のバリアでした。
 今回の「盲導犬アンドリューの一日」については、たまたま絵本のため本自体の分量も少なく、関係各社のご努力により一般文字版とほぼ同じ価格が実現できるはこびとなりましたが、通常の出版物の場合現実的には同価格を実践するにはかなりきびしい状況にあります。
 1例を挙げれば拙著「二人五脚」(原本:実業之日本社刊)の一般文字版の価格は1,500円(税別)に対し、点訳版(3分冊)で15,000円(非課税)、音訳版(90分、4.5巻)で個人向けが4,050円、公共図書館向けが13,500円、大活字版(三分冊)で9,000円(1巻3,000円)、マルチメディアDAISY版(CD1枚)で4,760円でした。それでも点字版については、国の価格差補償制度があり、重度の視覚障害者の方であれば、申請の手続きをすることで、原本と同じ価格で購入することができます。
 ここで簡単にこの価格差補償制度について触れておくと、正確には「点字図書給付事業」といって、点字図書と原本との価格の差額を補償するものです。対象者(身体障害者手帳1・2級)は、年間6タイトル24冊の範囲で補助を受けることができます。しかしこの制度の存在について知っている視覚障害者はまだまだ少ないのが現状です。またこの制度は、現時点では点字のみが対象で、その他の媒体では、すべて読みたいと思った読者の方の負担です。
 一般的に視覚障害者は点字を使用することが前提のように考えられがちですが、実際には全国約30万人の視覚障害者のうち、点字を使用しているのはその1割に当たる約3万人程度にすぎません。点字を使用していない9割の視覚障害者は、朗読テープや大活字、FDブック、DAISYの資料を使用していることになります。
 今後もより一層のバリアフリー出版を推進していくためには、「価格差補償制度」のPRとともに、「価格差補償の枠」を音訳版や大活字版、FDブック版、DAISY版にも広げていく必要性を改めて感じました。

    おわりに
 「バリアフリー同時・同価格出版」は、私たち通常の方法による読書の困難な障害者の悲願といっても過言ではありません。本当は私のような素人の作品ではなく、プロの作家の方の作品が実践できれば理想的だとは思いますが、残念ながら現時点ではまだ実践できていません。
 しかし今まで何とか本当に亀の歩みのような道程ではあっても、途切れることなくバリアフリー出版が実践されて来ていることに対し、皆さんの暖かいご協力と関係各社のご努力に対し心から感謝いたしております。
 今後も一人でも多くの著者や出版社の方が、視覚障害者等通常の方法による読書の困難な障害者の読書について、より一層の理解とご協力をしてくださることを心から願っています。また今まで日本での研究の遅れていた「読み書き、計算など発達性障害をもつ多くの子どもさんたちのためにもバリアフリー出版が推進されることを心から願っています。
 今後もしこの原稿を読んでくださった著者の方や出版社の方が、「バリアフリー出版」にご協力いただけるようでしたら、是非直接文末の関係各社の方にご連絡いただければ幸いです。

    「盲導犬アンドリューの一日」書誌情報
書名…「盲導犬アンドリューの一日」
著者…松井進・作/鈴木びんこ・絵
出版社…ポトス出版有限会社
    〒168-0081 東京都杉並区宮前4-31-20
    TEL・FAX 03-3332-3913
造本…B5変型判・28P(オールカラー・総ルビ)
定価…本体1400円+税
一般文字版ISBN…4-901979-00-0 C8737 \1400E
マルチメディアDAISY版ISBN…4-901979-01-9 C8837 \1400E

    「盲導犬アンドリューの一日」問い合わせ窓口・価格一覧
一般文字版…ポトス出版(有) (地方小出版流通センター取扱品)
   〒168-0081 東京都杉並区宮前4-31-20
   03-3332-3913
   価格…1,400円(税別)
マルチメディアDAISY版…ポトス出版(有) (発売)
   (有)デージーコンサルティング(製作協力)
   〒460-0013 名古屋市中区上前津二丁目1番27号 堀井ビル2F
   052-350-5330
   価格…1,400円(税別)
音訳版(朗読テープ)…(株)音訳サービス・J
   〒221-0057 神奈川県横浜市神奈川区青木町1−10−702
   045-441-1674
   価格…1,400円(税・送料別)
点訳版…(有)オフィスリエゾン
   〒610-0121 京都府城陽市寺田市ノ久保2−63
   0774-56-3907
   価格…1,400円(非課税)
大活字版…視覚障碍者読書支援協会(BBA)
   〒193-0802 東京都八王子市犬目町455-9
   070-5100-8038 FAX:0426-24-4514
   価格…1,400円(税・送料別)
FDブック版…(有)グーテンベルク21
   〒156-0043 東京都世田谷区松原1-2-17
   03-3327-3917
   価格…500円(税・送料別)

(この原稿は「出版ニュース」(洋泉社発行)11月上旬号より転載しました。)


 

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